ギリシアの「戦士=農民共同体」

柄谷行人はギリシアの「氏族社会(戦士=農民共同体)」に関して書いていますが、はっきりとした原資料はありません(柄谷の説は被支配共同体と区別した、あくまで支配共同体に残った「戦士=農民共同体」に可能性を見ている点が画期的です。この二つをエンゲルスは混同して扱っているそうです。「at」12号参照)。

戦士に関しては資料は多々ありますが、農民に関してはヘシオドス『仕事と日』くらいでしょう。

柄谷が『日本精神分析』で引用したのは『丘のうえの民主政』という本ですが、さらにその元ネタはアリストテレスの『アテナイの国政』(岩波文庫、くじ引きに詳しい)で、これは『政治論』(岩波文庫、徴兵に関して総合的な記述あり)とともに原資料としておすすめですが。

戦士と農民に関しては、結局、『七人の侍』を見た方がいいくらいではないでしょうか? ただしこの映画も農民と兵士が菊千代以外は分けられているから歴史的史実に忠実という訳ではありません。

アリストテレスの記述を読んで要約すると、将軍選出にはくじ引きを使わない、農村共同体の組織を徴兵した際も使う場合があり、くじ引きの対象になる、ただし、労務者というより奴隷はくじ引き、つまり役職の対象から外れる、といったところでしょうか?

基本的にギリシアは農地が痩せていて、オリーブにしか適していませんが、そのせいかその油を早くから貿易で売って食料を外国から購入していたようです(河出文庫『世界の歴史4 ギリシア』)。

ピースボートに乗ったときも運用するのはギリシアの会社で、彼らの海洋国家としての自負は並々ならぬものがあると思いました。ケネディ元大統領夫人と結婚し、マリア・カラスと浮き名を流した海運王オナシスもギリシア人でしたし、、、

先の話題に戻ると、エンゲルスとマルクスが氏族社会のモデルとして驚嘆したモルガン『古代社会』で描かれたイロクォイ族の連合制度はアメリカ合衆国のモデルとなったそうです。
アメリカ先住民の文化には、ギリシア・アテネの民主制以上に、アジア的共同体のような官僚制、常備軍というシステムに頼らずに平和を維持するヒントがあるような気がします。

付録:

アジア的       |    氏族的
 支配#/被支配*  |     支配*#/被支配
___________|______________
古典古代的      |   封建的
(ギリシア・ローマ) | (ゲルマン的)
 支配*#/被支配  |  支配#/被支配* 

*エンゲルスが着目した部分(一貫性がない)。
#柄谷とマルクスが着目する部分。
アジア的支配者は、官僚制と常備軍という優れたシステムを持ち自国民を分断統治できた。
ギリシアは氏族社会の支配者側の戦士=農民共同体を維持し、アソシエーションの可能性を文化的に残している。
封建制の支配者側には双務的な契約があり、自由が存在した。

追記:
柄谷行人は「文學界」('08,11)の座談会でヘロドトスの『歴史』を最近読んだと述べ、人類学の書として絶賛しています(ヘロドトスはアリストテレスのような自民族中心主義がなく公平だそうです)。

また、『丘のうえの〜』より河出文庫『世界の歴史4 ギリシア』の方が古いですが総合的なので個人的にはいいと思います(ちなみにこの本で、ヘロドトスで広まった「ヒストリー=歴史」の語の元の意味は「探究or探求」だと知りました)。

今だに映画でいいものを探しているのですが、、、
戦士はわかるのですが、ギリシアと農民はなかなか繋がりません。やはりギリシアはかなり初期から海洋国家だったと考えるべきだと思っています。
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by yojisekimoto | 2009-01-19 17:17 | 柄谷行人


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