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佐藤優とロバート・ベラー:メモ

’09年1月25日元外交官の佐藤優氏がサンデープロジェクトに出演し、オバマ合衆国大統領の就任演説について語った。


役所が責任から逃げようとする「消極的権限争議」(黒澤明が『生きる』冒頭で描いたものだ)についての話や日本が西洋にとって文化人類学的研究の対象であるという指摘が面白い。

さて、後半部の最初に名前の出て来る、アメリカの「市民宗教」なるものを指摘し命名したというロバート・ベラー(Robert N. Bellah)はタルコット・パーソンズの弟子にあたり、パーソンズの晩年は共同研究のパートナーでもあった(パーソンズは共同研究を重視した)。ベラーの『徳川時代の宗教』(岩波文庫)は丸山真男も著作集第7巻で論じている。この論文ではベラーが採用したパーソンズの機能図式(以前もこのブログで触れた)が紹介されている(丸山真男集第7巻p260)。

  普遍主義                特別関係主義
A_________________________________G
|              |                 |
|  Adaptation 適応      |    Goal Attainment 目標    |業績主義
|ーーーーーーーーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーー|
|              |                 |
|   Latency  潜在性   |   Integration 統合       |属性主義
|______________|_________________|
L                                 I

ベラーによれば日本人の場合、Lの潜在性は美的情緒的価値(宗教的なものでもある)にあたり、影響力が大きい。したがって為政者はこれを限られた区画でしか発揮できないようにしたという。

昨年の早稲田講演で柄谷行人が引用した丸山の論文に出てくる図式↓(丸山真男集第9巻)はこのベラーの論文に触発された可能性が高い(対応するであろうagilの記号は引用者がつけたした)。

      結社形成的
遠  I自立化(l)   D民主化(i)   求
心       +         心
的  P私化(a)   Aアトム化(g)  的
     非結社形成的

ベラーと丸山ではそれぞれパターンの変数設定が以下のように違う(上記図では上下が逆)。丸山の術語は()内。

普遍主義←→特別関係主義(遠心的 ←→求心的)
業績主義←→属性主義 (非結社形成的←→結社形成的)

用語は違うが性質はかなり近い。

(ちなみに柄谷のいうアソシエーションは引用者の恣意的な定義では、普遍主義ー結社形成的、遠心的ー属性主義的な「潜在性」だということになる。さらに変数を倫理学的用語に設定するとしたら契約的ー人格的ということになると思う。)

ベラーの言う「市民宗教」はアメリカにおける潜在性(Latency)*であり、佐藤氏に言わせればオバマが訴えかけたものに相当する。またそれは日本における宗教及び美的情緒的価値に相当し、国家形成(この場合は国家の自立化)の原動力なのだということだろう(柄谷はそれをアソシエーションに置き換えようとしている)。

*パーソンズの図式だと、生命/行為/社会システム(左が上位概念)のうち潜在性はそれぞれテリック(究極)/文化/信託システムに相当する。

ベラーは共時的側面を重視し、丸山は通時的側面を重視する点も多少違うし、4次元事象図は社会学でよく採用されるので(例:宮台信司『権力の予期理論』など)丸山がパーソンズを意識したかはわからないが、まったく無関係とも考えられない。

追記:
丸山の図式は直接的にはPublic opinion in war and peace / by Abbott Lawrence Lowell.の第7章にある図↓を参考にしていると明記されている。goolgebook該当箇所、同書p276

         CONTENTED 満足
      Liverals    Conservatives
     (リベラルa)  (保守的g)
SANGUINE  ーーーーー+ーーーーーーーNOT SANGUINE
楽観的   Radicals   Reactionaries   悲観的
      (急進的l)  (反動的i)
        DISCONTENTED 不満

なお、ベラーは上記書で石田梅厳の倫理的商業観に着目し、ウェーバーがヨーロッパ(及びそのプロテスタンティズム)にしたのと同じことを日本に対し行っている。石田は身分にとらわれない考え方でオバマ(というよりかつてのケネディ)と同じことを訴えたのだ。

補足:
その後ベラーの「アメリカの市民宗教」(邦訳『社会変革と宗教倫理』所収)を読んだ。「市民宗教」はルソーが最初に使った言葉だそうだ(社会契約論第四部8章)。ケネディをはじめ大統領就任演説を分析の題材にしたこの論でベラー自身はアメリカにおける市民宗教を潜在的なものというよりも統合する力として距離を置いて考えているようだ。それはインディアンへの配慮を記載していることからもわかる(邦訳p365)。ベラーは市民宗教に希望を持っているが、現時点でのそれを充分にヒューマニスティックだとは思っていない。
by yojisekimoto | 2009-01-26 20:23 | パーソンズ


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