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ボブ・ディラン、80年代インタビューより

ボブ・ディランの2010年来日公演が決定した。以下、彼の1980年代のインタビューより。

(略)

 − あなたは、今でも平和を願っていますか?

「平和のためにできることなんて何もない」

 − 平和のために働く価値もないと考えていますか?

「ない。そんなものは偽りの平和だ。例えば、ライフルには再び弾丸を込めることができる。そして弾丸を込めているその瞬間を平和と言うようなものだ。数年間、続くかもしれない平和だ」

 − 平和のために戦うことも価値がないことですか?

「ない。すべて平和とは関係のないことだ。ラジオで誰かが、ハイチで何が起こっているかについて加われわれは今ハイチで起こっていることに目を向けなくてはならない。われわれは地球上の人間なのです』と話しているのを聞いた。われわれも同じ考え方をするように、し向けているんだ。つまりもはや、われわれはただ単にアメリカ合衆国だけではなく、地球上の国民であると。情報が瞬時に各家庭に伝わる時代なので、全世界レベルで物事を考えるわけだ。でも、このことはヨハネの黙示録に全部記されていることだ。だから誰かが平和のために何かしようとしていても、それが平和のためではないことが、わかるはずだ」

 − しかし、もし誰かが純粋に平和のために何かをしようとする場合はどうですか?

「地球上のすべての人の平和のために、何かをできる人はいない。そのことは(Man Of Peace)で歌っている。しかし、来世を信じている人には、こうしたことはすべてどうでもいいことだ。現世しか信じない人は、当惑させられるだろう。そこから抜け出す方法もない。この世の終わりを見ることができないので、おかしくなるだろう。じっとしていたいと思うかもしれないが、それもできない。しかしそれでも、違ったレベルで現世を見ることはできるだろう。人生を振り返って、『こうなっていたのか。ああ、どうしてあの時、わからなかったんだろう』と思うことはできる」

 − それはとても、運命論的な見解ですね?

「ぼくは、実在論的だと思う。たとえ運命論的だとしても、それはただ単に、現世のレベルで運命論的だということだ。そしてどうせこのレベルはなくなるのだから、どちらでもかまわないと思う。運命論者だったらどうだと言うんだ?」 

 − (License to Kill) の歌詞に「人間は自らの破壊をもたらした/最初の一歩は月に行くととだった」というくだりがありますが、あなたは本当にそう信じているのですか?

「そう信じている。どうしてぼくがあの歌詞を作ったのかわからないけど、あるレベルで、月は未知なるものへの入口のような存在なんだ」

 − 人類は、進歩と前進をするべきだと思うのですが?

「しかし……月に行くことはない。月へ行くことの目的はなんだ? ぼくは、まるで意味のないことと思っている。そして今は、宇宙ステーションを打ち上げようとしているが、その費用が6000億ドルも7000億ドルもする。それでいったい誰が利益を得るんだ? 製薬会社は、いい薬を作ることができるようになるかもしれない。そんなことで筋が通るだろうか? 人が興奮するようなことなのだろうか? これが前進なのだろうか? ぼくは、より良い薬を開発できるとは思わない。より高価な薬を開発するだけだと思う。
 今では何もかもコンピュータ化されている。ぼくはそれを終末の始まりと思う。何もかもが世界的規模になっていくのがわかるだろ。今では国籍も、自分が特定の何かだというものもない。『われわれはみんな同じだ、みんなでひとつの平和な世界を作るために働いているんだ……』というわけだ。
 アメリカで何が起こっているのかを説明できる人が現われなければならない。アメリカが、海に囲まれた単なるひとつの島となってしまうのか、あるいは地球上のすべてのことと関わっているのか、ぼくは、断言できない。現時点では、関わっているように思うが、将来的には輸入にたよらずに自国で生産できる自給国となるべきだろう。
 現在は、アメリカも他の多くの国も、ひとつの大きな地球規模の国を作るように努力しているみたいだ。ある場所から原料や素材を入手し、別の場所でそれを加工し、さらに別の場所でそれらを売る、しかもこうした過程を同じひとりの人間が管理するというものだ。まだ実現していないとしても、目ざしていることは確かだ」

 − (Union Sundown)の歌詞の中で、あなたの運転するシヴォレーは、「アルゼンチンで、一日に30セント稼ぐ男によって組み立てられた」と歌っていますが、あなたは彼が一日に30セント稼がないほうが、しあわせだと思っているのですか?

「一日に30セントを何に使うというんだ? 彼は一日に30セントなんて要らない。つまり、人間は6000年もの間、後からやってきた人のために奴隷のような低賃金で働かなくても生きていたんだ。だから……実際それはただの植民地化だ。ぼくが生まれた場所では、鉱山で同様の取り引きをしていたから、ぼくはそれを直接知っている」

 − あなたが育ったのはミネソタの鉄鉱地帯ですね?

「そうだ。ある時期、みんなが鉱山で働いていた。事実、第二次世界大戦で使われた鉄の90パーセントがあそこから掘り出されたものだった。しかし結局、『ここの鉄を掘るのは金がかかりすぎる。別のところで掘ることにしよう』と経営者たちは判断した。同じことが別の生産物にも起きると、ぼくは思う」


『ローリングストーン インタビューズ 80s』(pp.194-196)
by yojisekimoto | 2009-12-27 10:48 | ディラン


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