ユングの東洋趣味はよく知られているが、フロイトも1920年『快感原則の彼岸』(ちくま文庫『自我論集』191頁)の脚注で、ウパニシャッド(「ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド」)の以下の部分を孫引きして、プラトン(『響宴』でアリスとファネスに語らせている神話)への影響の可能性を論じている(前出のちくま文庫では「ブリハード・アラニヤーカ・ウパニシャッド」と表記されてしまっている)。
さすがにフロイトはユングのような元型論はとっていない。 http://klibredb.lib.kanagawa-u.ac.jp/dspace/handle/10487/3311 ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド(Brhadaranyaka-Upanisad) 湯田豊:訳 1:4:3 それ(アートマン)は快として楽しまなかった。 それゆえ,単独でいる時には,人は楽しまない。それは第二者を望んだ。 それは抱擁している夫妻の大きさであった。 それは,自己自身を二つの部分に分割した。 それから,夫と妻が生じた。 それゆえ,われわれ両人は,いわば,この片割れである,とヤージュニャヴァルキヤは言うのを常とした。 それゆえ,この空虚は妻によって満たされる。 彼は妻を抱いた。 それから,人間が生まれた。 http://klibredb.lib.kanagawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/10487/3311/1/kana-7-5-0002.pdf 注: インド哲学の側から見ると、シャンカラが『ウパデーシャ・サーハスリー』で一部このテクストの註釈(不二一元論の源流?)をしていることからもわかるように最重要のテクストである(ただし「世界の名著」1に部分訳があるだけで手近かな邦訳はない)。湯田氏が「ブリハッドアーラニヤカ・ウパニシャッド」として『ウパニシャッド―翻訳および解説』(上記引用箇所は20頁)で全訳しているが、ユングは冒頭の文章も断片的(下259頁等)に引用しているので『変容の象徴』が入手しやすいテクストということになる。 追記: フロイトの知識はユング経由だと思う。『変容の象徴』上本文321及び345頁の脚注に(「ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド」ではなく)「ブラダーラニヤカウパニシャド」という書名で同じ箇所の紹介及び同じ指摘がすでにされているからだ。 脚注(プラトンへの影響説=ユングの場合はフロイトのように『響宴』ではなく『ティマイオス』を引用しているが)は1952年版にはじめてつけられたからユングがフロイトを模倣した可能性もあるが、「ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド」自体の紹介はドイセン(またはドイッセン)経由で本文(1912年)にあり、ユングの方が早い。 http://nirmukta.com/2009/12/16/the-upanishads-attempt-to-reform-brahmanism/ 「実に、感覚器官のかなたに事物があり、事物のかなたに思考がある。 思考のかなたに理解力があり、理解力(buddhi)のかなたに、大いなる自己(mahan atma)がある。」 (カタ・ウパニシャッド3:10、上記書456頁より、湯田豊訳) 湯田豊によればウパニシャッドという言葉の語源は弟子が師匠の下に座っていたことを意味するのではなく、人と事物の属性を規定していることにあるようだ。ネットで拾った上記の図は(西欧的文脈だが)ウパニシャッドの意義を良く指し示している。
by yojisekimoto
| 2010-10-29 23:45
| インド哲学
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