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ハイデガーの全体像

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上記は、「ハイデッガーが講堂の黒板に描いた図形、現存在の図示としておそらく唯一の物と思われる図形」(*)である。
このハイデガー自身の描いた図に、恣意的に時間軸と空間軸(横と縦)を加えて、ハイデガーの思想の全体図をつくってみた。
ハイデガーの全体像_a0024841_15444778.jpg


ただし図に記載された事実存在と本質存在は逆かもしれない。ハイデッガーにとっては本質の方が空間的、というよりも時間軸の一点に位置づけられるからである(図で描くなら「現」から真上に伸びる縦軸に定位及び固定されるだろう**)。
『存在と時間』は図でいえば縦の楕円(第一部第一編)のあとに横の楕円(第一部第二編)という記述順になっている。ただし、カントでいえば実践理性の問題が各編の後半部で一緒に扱われているのでこの構成が見えにくい。

さらに図を解説すると、一つ一つの現存在の右下は他者に向かって開いている。
右上の空白は図を(というよりも、このサイトを)見ている(本質的、実在的)他者に向かって開いている。 これはハイデガーの原図にすでにあるコンセプトであり、深読みかもしれないが、この辺りはさすがだと思う。普通なら6個の現存在を描いてしまうだろうし、6個なら何の魅力もない図になっていただろう。

  斜めの位置には本質的他者がいると考えた。アーレントやヴィトゲンシュタインがそれにあたる。いや、むしろ一見ハイデガーと無関係な空間的な(=無媒介に空間を飛び越える)思想家であるスピノザこそハイデガーにとっての他者かもしれない。

この図の横軸にはさらに、左に未来として解釈者の主体を、現存在の真下に現在という意味で「現」を書き加えることができる。
ただし、問題点としては、ハイデガーは、歴史を「現」に還元し、解釈は未来における現存在の意味を開示するが、歴史自体がそもそも解釈による産物だったのだからそれは循環論法となるということである。
その矛盾は、ハイデガー自身も半ば気づいていただろうし(***)、木田元が指摘するように、『存在と時間』のように現存在から書いても、『現象学の根本問題』のように歴史から書いても解消されない。

端的に述べるなら、いかなる手段をとろうとも、現存在を存在論的に解明する際の循環論法を、解釈学では避けることは出来ないのだ。 これは出発点である現象学的方法論の宿命である。

注*
「ハイデッガーが講堂の黒板に描いた図形、現存在の図示としておそらく唯一の物と思われる図形」

「次ページの図は、人間の実存がその本質根拠において、決してどこかに事物的に存在している対象ではなく、ましてや、それ自身の内で完結した対象ですらないということを明示するためのものでしかない。 (略)現存在として実存するとは次のことを意味する。現存在が「開け」られていることからもろもろの所与がそれに向かって語りかけてくるが、その意味指示性を認取しうることによってある領域を開けたままにしておくというのがその意味である。人間の現存在は、認取しうることの領域として、決して単に事物的に存在する対象ではない。反対にそれはそもそも決して、もともと決していかなる場合であろうとも、対象化すべき何かではない。 」
ハイデッガー『ツォリコーン・ゼミナール』(みすず書房1991年,p3) より
(参考サイト:
http://www.archi.kyoto-u.ac.jp/~maeda-lab/A_maeda/A03_thesises/A03_thesis_room.html
上記サイトはハイデガーの原図を解説しているが、矢印の解釈が少し違う。)

注**
ハイデガーの時間概念は、以下のようにいくつものレイヤーで成り立っている。#-は節番号。

            死#49-53   生       誕生
世界内存在#23、空間性×#12,70  (開示性一般#68)
            (a了解=目的)
               (b情状=恐れ)
気遣い*#42の契機 ------------------(C頽落)、良心#55-60、呼び声#56、責め#58
----------------------------------------企投/被投性 #58(企投:了解「として」の完成=解釈#32)
----------------------------------------------------(d語り)
通俗的時間概念#81-------未来-----------現在----------過去 /既在
実存論的時間概念#70------到来-----------現在(現成化)-------/既在
非本来的時間性#68------予期-----------現成化----------忘却性
-----------------------------------空談#35/沈黙、語り?#36----------------
---------------------------------好奇心#36/視?#36--------------------
---------------------------------曖昧性#37/決意性#62
本来的時間性#74----------先駆#53---------瞬視#68-------取り返し#74
                     歴史的なもの/歴史性#72
*気遣い(=関心) #12,42
自己←(関心#64/配慮#12,16/顧慮#26)→他者#48

(参考: 村田久行『ケアの思想と対人援助』
http://plaza.rakuten.co.jp/sousuke/4001
山竹伸二の心理学サイト 02. ハイデガー『存在と時間』を読む
http://yamatake.chu.jp/03phi/1phi_a/2.html)

注***
存在者に対しては存在的なる言葉があり、存在に対しては存在論的なる言葉があるが、このうち存在における主観と客観の循環論法は自明だし、存在論内部の循環論法にも『存在と時間』の前半でハイデガーはすでに気づいている(第2,32,63節)。続編で書かれるはずの存在論史(歴史)がこの循環論法から脱する糸口になるとハイデッガーは考えていただろうが、そうではないというのが木田元の意見だ(『ハイデガーの思想』他)。
存在者、存在、存在論といった項目が、前出の筆者が作成した図の縦の楕円に位置づけられるのが妥当なら、存在論は一番外延にあたるだろう。そしてその縦の楕円をそのままに倒したら時間軸における存在論史(歴史)と重なってしまうというのが、ハイデガーの思想の問題点だと思う。重ならなければハイデガーは歴史を語ることができず、重なるならば自己矛盾を自らの思想全体に含むことになるからだ。
ハイデガーの現象学、というよりも解釈学は、定向性を持った現存在であり続けることでやっと論理的な矛盾を隠蔽することができる。


追記:
作図にあたって、九鬼周造「人間と実存」(全集第三巻所収)が参考になった(九鬼は、現象学的存在学という語句を、存在学は対象を、現象学は方法を規定するとして解析している)。

また、ハイデガーの存在論は不確定性を含むので、社会的インフラ整備を前提とした郵便的なる概念では相対化できない。このことはハイデガーがアリストテレスから受け継いだ「銀杯」の分析↓(前掲『ツォリコーン〜』p26,『技術論』参照)などからもわかる。1質料、2形相、3目的、4起因(制作者のことだが現代ではその存在は難しい)というハイデガーの分類は、相対化を指摘したもの、つまり存在の一義性に疑問を呈したものとして読めるからだ。
ハイデガーの全体像_a0024841_16123647.jpg


図は以下のサイトより、
http://www2.hawaii.edu/~zuern/demo/heidegger/guide2.html


蛇足:
ハイデガーはセンガイの以下の絵を見たら何と評したろうか?
ハイデガーの全体像_a0024841_15365629.jpg


追記:
その後、前出のレイヤー(以下↓に採録)をもとに詳細な『存在と時間』構造図をつくってみた(10/21)。
関心は現存在と他者との「間」#28に位置づけられる。
現存在、内存在自体も主観と事物的存在の間にある。
(現存在を中心とする円環にはなっていないと解釈した。)
ハイデガーの全体像_a0024841_1530147.jpg

            死#49-53   生       誕生
世界内存在#23、空間性×#12,70  (開示性一般#68)
            (a了解=目的)
               (b情状=恐れ)
気遣い*#42の契機 ------------------(C頽落)、良心#55-60、呼び声#56、責め#58
----------------------------------------企投/被投性 #58(企投:了解「として」の完成=解釈#32)
----------------------------------------------------(d語り)
通俗的時間概念#81-------未来-----------現在----------過去 /既在
実存論的時間概念#70------到来-----------現在(現成化)-------/既在
非本来的時間性#68------予期-----------現成化----------忘却性
-----------------------------------空談#35/沈黙、語り?#36----------------
---------------------------------好奇心#36/視?#36--------------------
---------------------------------曖昧性#37/決意性#62
本来的時間性#74----------先駆#53---------瞬視#68-------取り返し#74
                     歴史的なもの/歴史性#72
*気遣い(=関心) #12,42
自己←(関心#64/配慮#12,16/顧慮#26)→他者#48
by yojisekimoto | 2007-10-14 15:51 | ハイデガー


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