![]() 上記は、「ハイデッガーが講堂の黒板に描いた図形、現存在の図示としておそらく唯一の物と思われる図形」(*)である。 このハイデガー自身の描いた図に、恣意的に時間軸と空間軸(横と縦)を加えて、ハイデガーの思想の全体図をつくってみた。 ![]() ただし図に記載された事実存在と本質存在は逆かもしれない。ハイデッガーにとっては本質の方が空間的、というよりも時間軸の一点に位置づけられるからである(図で描くなら「現」から真上に伸びる縦軸に定位及び固定されるだろう**)。 『存在と時間』は図でいえば縦の楕円(第一部第一編)のあとに横の楕円(第一部第二編)という記述順になっている。ただし、カントでいえば実践理性の問題が各編の後半部で一緒に扱われているのでこの構成が見えにくい。 さらに図を解説すると、一つ一つの現存在の右下は他者に向かって開いている。 右上の空白は図を(というよりも、このサイトを)見ている(本質的、実在的)他者に向かって開いている。 これはハイデガーの原図にすでにあるコンセプトであり、深読みかもしれないが、この辺りはさすがだと思う。普通なら6個の現存在を描いてしまうだろうし、6個なら何の魅力もない図になっていただろう。 斜めの位置には本質的他者がいると考えた。アーレントやヴィトゲンシュタインがそれにあたる。いや、むしろ一見ハイデガーと無関係な空間的な(=無媒介に空間を飛び越える)思想家であるスピノザこそハイデガーにとっての他者かもしれない。 この図の横軸にはさらに、左に未来として解釈者の主体を、現存在の真下に現在という意味で「現」を書き加えることができる。 ただし、問題点としては、ハイデガーは、歴史を「現」に還元し、解釈は未来における現存在の意味を開示するが、歴史自体がそもそも解釈による産物だったのだからそれは循環論法となるということである。 その矛盾は、ハイデガー自身も半ば気づいていただろうし(***)、木田元が指摘するように、『存在と時間』のように現存在から書いても、『現象学の根本問題』のように歴史から書いても解消されない。 端的に述べるなら、いかなる手段をとろうとも、現存在を存在論的に解明する際の循環論法を、解釈学では避けることは出来ないのだ。 これは出発点である現象学的方法論の宿命である。 注* 「ハイデッガーが講堂の黒板に描いた図形、現存在の図示としておそらく唯一の物と思われる図形」 「次ページの図は、人間の実存がその本質根拠において、決してどこかに事物的に存在している対象ではなく、ましてや、それ自身の内で完結した対象ですらないということを明示するためのものでしかない。 (略)現存在として実存するとは次のことを意味する。現存在が「開け」られていることからもろもろの所与がそれに向かって語りかけてくるが、その意味指示性を認取しうることによってある領域を開けたままにしておくというのがその意味である。人間の現存在は、認取しうることの領域として、決して単に事物的に存在する対象ではない。反対にそれはそもそも決して、もともと決していかなる場合であろうとも、対象化すべき何かではない。 」 ハイデッガー『ツォリコーン・ゼミナール』(みすず書房1991年,p3) より (参考サイト: http://www.archi.kyoto-u.ac.jp/~maeda-lab/A_maeda/A03_thesises/A03_thesis_room.html 上記サイトはハイデガーの原図を解説しているが、矢印の解釈が少し違う。) 注** ハイデガーの時間概念は、以下のようにいくつものレイヤーで成り立っている。#-は節番号。 死#49-53 生 誕生 世界内存在#23、空間性×#12,70 (開示性一般#68) (a了解=目的) (b情状=恐れ) 気遣い*#42の契機 ------------------(C頽落)、良心#55-60、呼び声#56、責め#58 ----------------------------------------企投/被投性 #58(企投:了解「として」の完成=解釈#32) ----------------------------------------------------(d語り) 通俗的時間概念#81-------未来-----------現在----------過去 /既在 実存論的時間概念#70------到来-----------現在(現成化)-------/既在 非本来的時間性#68------予期-----------現成化----------忘却性 -----------------------------------空談#35/沈黙、語り?#36---------------- ---------------------------------好奇心#36/視?#36-------------------- ---------------------------------曖昧性#37/決意性#62 本来的時間性#74----------先駆#53---------瞬視#68-------取り返し#74 歴史的なもの/歴史性#72 *気遣い(=関心) #12,42 自己←(関心#64/配慮#12,16/顧慮#26)→他者#48 (参考: 村田久行『ケアの思想と対人援助』 http://plaza.rakuten.co.jp/sousuke/4001 山竹伸二の心理学サイト 02. ハイデガー『存在と時間』を読む http://yamatake.chu.jp/03phi/1phi_a/2.html) 注*** 存在者に対しては存在的なる言葉があり、存在に対しては存在論的なる言葉があるが、このうち存在における主観と客観の循環論法は自明だし、存在論内部の循環論法にも『存在と時間』の前半でハイデガーはすでに気づいている(第2,32,63節)。続編で書かれるはずの存在論史(歴史)がこの循環論法から脱する糸口になるとハイデッガーは考えていただろうが、そうではないというのが木田元の意見だ(『ハイデガーの思想』他)。 存在者、存在、存在論といった項目が、前出の筆者が作成した図の縦の楕円に位置づけられるのが妥当なら、存在論は一番外延にあたるだろう。そしてその縦の楕円をそのままに倒したら時間軸における存在論史(歴史)と重なってしまうというのが、ハイデガーの思想の問題点だと思う。重ならなければハイデガーは歴史を語ることができず、重なるならば自己矛盾を自らの思想全体に含むことになるからだ。 ハイデガーの現象学、というよりも解釈学は、定向性を持った現存在であり続けることでやっと論理的な矛盾を隠蔽することができる。 追記: 作図にあたって、九鬼周造「人間と実存」(全集第三巻所収)が参考になった(九鬼は、現象学的存在学という語句を、存在学は対象を、現象学は方法を規定するとして解析している)。 また、ハイデガーの存在論は不確定性を含むので、社会的インフラ整備を前提とした郵便的なる概念では相対化できない。このことはハイデガーがアリストテレスから受け継いだ「銀杯」の分析↓(前掲『ツォリコーン〜』p26,『技術論』参照)などからもわかる。1質料、2形相、3目的、4起因(制作者のことだが現代ではその存在は難しい)というハイデガーの分類は、相対化を指摘したもの、つまり存在の一義性に疑問を呈したものとして読めるからだ。 ![]() 図は以下のサイトより、 http://www2.hawaii.edu/~zuern/demo/heidegger/guide2.html 蛇足: ハイデガーはセンガイの以下の絵を見たら何と評したろうか? ![]() 追記: その後、前出のレイヤー(以下↓に採録)をもとに詳細な『存在と時間』構造図をつくってみた(10/21)。 関心は現存在と他者との「間」#28に位置づけられる。 現存在、内存在自体も主観と事物的存在の間にある。 (現存在を中心とする円環にはなっていないと解釈した。) ![]() 死#49-53 生 誕生 世界内存在#23、空間性×#12,70 (開示性一般#68) (a了解=目的) (b情状=恐れ) 気遣い*#42の契機 ------------------(C頽落)、良心#55-60、呼び声#56、責め#58 ----------------------------------------企投/被投性 #58(企投:了解「として」の完成=解釈#32) ----------------------------------------------------(d語り) 通俗的時間概念#81-------未来-----------現在----------過去 /既在 実存論的時間概念#70------到来-----------現在(現成化)-------/既在 非本来的時間性#68------予期-----------現成化----------忘却性 -----------------------------------空談#35/沈黙、語り?#36---------------- ---------------------------------好奇心#36/視?#36-------------------- ---------------------------------曖昧性#37/決意性#62 本来的時間性#74----------先駆#53---------瞬視#68-------取り返し#74 歴史的なもの/歴史性#72 *気遣い(=関心) #12,42 自己←(関心#64/配慮#12,16/顧慮#26)→他者#48
by yojisekimoto
| 2007-10-14 15:51
| ハイデガー
|
プロフィール
横浜在住。ナマケモノ倶楽部、TCX会員。参加している地域通貨は、Q(ID名は6463749)、三鷹seeds、鴨川安房マネー、多摩COMO、千姫プロジェクト(IDは「ヨウジ」)、千葉ピーナッツ、ccsp各種(IDはyojisekimoto)です。
フォロー中のブログ
カテゴリ
全体 研究 歌詞 書評 日記 柄谷行人 歴史 ヘーゲル マルクス ハイデガー 地域通貨 環境問題 プルードン パーソンズ フロイト くじ引き カント 横浜 スピノザ ライプニッツ ニーチェ 映画 SBS 旅 老子 スポーツ 数学 ディラン 黒澤明 音楽 インド哲学 文学 科学 心理学 ドゥルーズ 原発 仏教 百人一首 孔子 哲学 未分類 以前の記事
2016年 10月 2016年 03月 2015年 05月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 06月 検索
タグ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||