ジジェクはカントの4つの二律背反の前半の数学的矛盾を女性的な二重否定 とし、後半の力学的矛盾を男性的な全称肯定的とした(『否定的なもののもとへの滞留』ちくま文庫p112)。
これだけで何のことだか分からないが、『為すことを知らざればなり』ではうまくそうしたラカン仕込みの観念をグレマスの記号論や古典的論理学とつなげて説明している。 以下の基本図形があり、 A ---- 反対 ---- E | \ /| 大 矛 矛 大 小 盾盾 小 | / \ | I --- 小反対---- O カントでは: 1. 世界の時間的・空間的無限性 2. 物質の構造 3. 自由の存在 4. 神の存在 といった矛盾の内、最初の2つの数学的矛盾で「反対」に相当し女性性を表し、残りの力学的矛盾が「小反対」で男性性に相当する。 力学的矛盾は共に真であり得る。つまり〈小反対対当〉(subcontrariae)はI-O間の関係であって、一方が偽であれば他方は必ず真であるが、一方が真であるからといって他方は偽とは限らないからだ。 ヘーゲルの弁証法では以下のようになる(p326)。 必然的---- 反対 ---- 不可能的 | \ /| 大 矛 矛 大 小 盾盾 小 | / \ | 可能的 偶然的 ジジェクは以下のように述べる。「必然性と不可能性との対立は可能性の領域に解消する」、「それと共に消滅するものが(略)偶然的なものである。」(p326) さらにラカンでは以下になる(p328)。 命ぜられたもの---- 反対 ---- 禁じられたもの | \ /| 大 矛 矛 大 小 盾 盾 小 | / \ | 許されたもの X 一義的にはXは「真実」であるが、これを前出の男性、女性の定義とつなげれば、「性」そのものをつかもうとすることはXをつかもうとするのと同じということになる。 念のためラカンによる性差の図式は以下である。 http://www.ogimoto.com/ronbun/jack.html ![]() ( 左が男性、右が女性を表し、反対と小反対が上下逆。) 左: すべてのXに対してファロスの作用が及んでいる。下 ファロスの作用の及ばないXが少なくとも一つ存在する=父の名。上 (閉鎖集合) 右: ファロスの作用はすべてのXに及んでいるわけではない。下 ファロスの作用が及ばないようなXは存在しない。上 (開放集合=すべての要素は数え上げられないし、数え上げられてもすべてではない。)* * 参考図: ![]() (藤田博史『性倒錯の構造』p78より 「集合の図は四角で囲まれているが、実際は開放集合であるから、枠は頭の中で取り払って考えていただきたい。」p77) ラカンの4つの式は、 I O A E として、 伝統的論理学の4つの命題、全称肯定命題(A)、全称否定命題(E)、特殊肯定命題(I)、特殊否定命題(O)のそれぞれに対応するものである。 ただしこう考えるとAを男性的、Oを女性的とした最初の指摘と矛盾する。これはXを認識し損ねているということだろう。 ややこしいが全称肯定命題(男性的)と全称否定命題(女性的)の対立(反対)は女性的で、特殊肯定命題(男性的)、特殊否定命題(女性的)の対立(小反対)は男性的ということか、、。詳しい分析をするにはジジェクが援用したコプチェク(『わたしの欲望を読みなさい』)の文脈を捉え直す必要がある。 アラン・ソーカルに言わせれば、ラカンの論理記号の使い方は間違っているということになるが、ファンクションのfをファルスにしている時点でラカンは確信犯だし、ジジェクに言わせれば論理記号自体の意味内容と表記法自体の裂け目に性差を見いだしたラカンは画期的だということになる。 そしてラカンの考察は昔ながらの論理学にも定位され得る真っ当な成果ということになる。 ちなみにジジェクはカントとヘーゲルを以下のように図示してもいる(p366,367)。 ![]() へ−ゲルは単に円環を閉じたのではないところがミソだ。 上記の図はハイデガーが『ツォリコーン・ゼミナール』冒頭で描いた以前紹介したの現存在の図と比べると面白いかもしれない。 (ジジェクはコジェーヴ『ヘーゲル読解入門』における図(邦訳p168)をヒントにしているに違いない。)
by yojisekimoto
| 2007-11-03 21:46
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