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グノーシス主義

オカルト、バタイユ、ユング経由のグノーシス主義は、流行していてもなかなか共感できるものではなかったが、以下の引用を読んだとき重要性に気付いた。
これはペテロへ魔術師シモン(サマリアの出身)が反論した時の言葉である。

「あなたはまことにいつも麻痺した人のようだ。耳が、涜神に汚されぬように耳に栓をし、どう応ずればよいのかわからないので、すぐ逃げだす。それでもあなたに賛成する無遠慮な人びとはあなたの言葉を受け入れるだろう。あなたは彼らになじみある教えを語るから。だが、彼らは私を忌み嫌う。私が新しい、これまで聞いたことのない事柄を宣べ伝えるからである。」
The Recognitions of Clement.Book2:37(偽クレメンス文書、再会)
(部分邦訳『グノーシスの宗教』ハンス・ヨナスp156より)

"(略)you indeed, as confounded, will straightway shut your ears, that they may not be polluted with blasphemy, forsooth, and will take to flight because you cannot find an answer; while the unreasoning populace will assent to you, and embrace you as one teaching those things which are commonly received among them; and will curse me, as professing things new and unheard of, and instilling my error into the minds of others.”
p213
http://www.ccel.org/ccel/schaff/anf08.vi.iii.iv.xxxvii.html
http://www.compassionatespirit.com/Recognitions/Book-2.htm

さらに以下はヒッポリュトスが伝えた彼の断片である。

「だからあなたに対しては言いたいことを言い、書きたいことを書こう。そして書きたいことというのは次のようなことだ。宇宙的なアイオーン(実体・空間・天体に能産的かつ所産的生命力が現われる時期、次元、月期)には、初めも終りもない二つの流出物があり、それらはひとつの『根』から噴出する。『根』は不可視なる力、把握不可能な『沈然』(ビュトス)である。この流出物のひとつは、上から現われるもので、『偉大な力』、万物を支配する『宇宙精神』、『男性』である。一方は下から現われるもので、『偉大なる思念』、万物を生み出す『女性』である。両者の結合によって二つは結びつき、『中間距離』、初めも終りもない把握不可能な『風』を出現させる。このなかに万物を支える『父』が存在し、初めと終りをもつ事物を養うのである」。
(ナグ・ハマディ文書 1 ヒッポリュトス『全異端反駁』および、マンリー.P.ホール邦訳『徴哲学大系I』より 。ホールは「シモンが哲学者であったということは疑いない。彼の言葉が正確に保存されている断片には、彼の総合的、超越的思想が見事に表現されている。」と述べている。)http://www.asyura.com/sora/bd19991/msg/47.html

“To you, then, I address the things which I speak, and (to you) I write what I write. The writing is this: there are two offshoots from all the Æons, having neither beginning nor end, from one root. And this is a power, viz., Sige, (who is) invisible (and) incomprehensible. And one of these (offshoots) appears from above, which constitutes a great power, (the creative) Mind of the universe, which manages all things, (and is) a male. The other (offshoot), however, is from below, (and constitutes) a great Intelligence, and is a female which produces all things. From whence, ranged in pairs opposite each other, they undergo conjugal union, and manifest an intermediate interval, namely, an incomprehensible air, which has neither beginning nor end. But in this is a father who sustains all things, and nourishes things that have beginning and end. (略)"
http://www.ccel.org/ccel/schaff/anf05.iii.iii.iv.xiv.html

もともとシモン・マグスへの興味は、スピノザの『エチカ』を図解しようとしたときにシモン・マグスの思考の図解↓とそっくりだったことに気付いたから始まった。

グノーシス主義_a0024841_12242374.jpg




スピノザ『エチカ』
               様態
               /\
              /無限\
             /    \
 悲しみ________/__属性__\________喜び
    \  憎しみ /   /\   \  愛   /
     \   悪/___/実体\___\善   /  
      \  /\  知_/\_至福 /\  /    
       \/  \/ \神 / \/  \/
    所産的/   本性/_\/_\能産的自然\  
      /  \/__\_自由_/__\/  \
     /  延長\   \徳 /知性 /思惟  \  
  物体/______\___\/___/______\観念
         身体 \ 道徳,理性 / 精神     
             \  勇気/   
              \表象/
               \/
               感情,欲望
参考:
http://yojiseki.exblog.jp/9027655/
http://www.gnosis.org/library/grs-mead/grsm_simon_magus.htm
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/simon.html

シモンが源流(ファウスト伝説の源流のひとつとも言われる)とされるグノーシス主義は、(文字通り訳すなら)「認識主義」または「認知主義」と訳すことができる。
知識を持つことによって、歴史的文脈なしに救われることができるという考え方は、その極端な徳の無視を、欲望の肯定(生への努力)と解釈するならスピノザの哲学に極めて近い。
もちろんスピノザはマイモデニス流の超自然的な力を排除するから、全体性よりも無限を重視しており、グノーシス主義と完全に一致はしない。

それでも二元論的でないグノーシス主義の流派とスピノザの親和性は極めて高い。

参考図:
グノーシス主義_a0024841_2018412.jpg


ブランカッチ礼拝堂に描かれた魔術師シモン(部分)。
この種の絵画には珍しく魔術師シモンが理知的に描かれている。
なお、岡崎乾二郎氏の分析(『経験の条件』p165)におけるこの絵の解釈の一部を字義通り受け取ることで(テオフィルスの息子の蘇生というポジティブなエピソードと関連づけられる)、この絵の魔術師シモンを肯定的に捉える解釈があり得るかも知れない(『ダヴィンチコード』の「最後の晩餐」解釈によるグノーシス再評価と意味合いが近くなる)。どちらにせよ聖ペテロと魔術師シモンは「双対原理」(同書p302)で繋がっていると考えられる。
by yojisekimoto | 2009-12-09 22:45 | スピノザ


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