ヘーゲル左派という名称より青年ヘーゲル派の方が海外では一般的な理由は、モーゼス・へスを考えた場合わかりやすい。青年ヘーゲル派の一員として考えられるヘスは後年シオニズムに加担したから、左派というより青年ヘーゲル派の方がしっくりくるのだ。
ヘスは、以前紹介したエンゲルスの戯画には登場しないが、『ライン新聞』、第一次インターナショナル、『共産主義者宣言』にも積極的に関わったので、初期には左派の代表メンバーだったと言える。 彼の「貨幣体論」(邦訳『初期社会主義論集』所収)に見えるのはユダヤ人としてのアイデンティティーへの固執というより商人という自らの家系への嫌悪だ。文字と貨幣をつなげて考える点は一応論理的だが、結論である貨幣否定は理性的ではない。 ところどころで彼はプルードンに言及している。 歴史的にはプルードンを評価するが、現実的ではないと考えているようだ。あまりプルードン(特にその交換銀行論等の実践面)を知らなかったというのが実情だろう。 ヘスがドイツとフランスの状況を連結したものとして見ているところや、共産主義の意義を歴史的に捉えているところが素晴らしいが、彼はヘーゲルの間違いをやはり引き継いでしまっている。 その間違いを一概に断罪できないのは、ヘスが安易な二元論をとらないからだし(ただし、ヘスによって最終的に類と個の二元論が維持される点はユダヤ神秘思想に近いと言えるが)、その論理がヘーゲルというよりもスピノザを踏まえているからだ。 また、柄谷行人はヘスが「愛」を根拠にしている点を批判しているが、類的な愛を、エゴイズムから脱する根拠としてヘスが言及しているのは確かだが、それはヘスの主要概念とは言えない。ヘスの論理の根拠は上述したように貨幣への嫌悪と柄谷行人らが指摘するように交通という概念だろう。 (スピノザを援用しているおかげで、マルクスに先駆けて交通という幅広い観念を、しかもマルクスと違って経済に限定せずに使うことにヘスは成功している。ここは柄谷が評価する部分であるが*、柄谷は交通よりも交換という概念を使うことでヘスのような一般論化を打破する)。 歴史的に、ヘスがスピノザを援用しながらも(この部分はネグリを連想させる)どうしてヘーゲルを逆転させるだけの発想から逃れられず(プルードン、ゲゼルのような金融の新しい代替案を提示できず)シオニズムに加担していったのか? 現在でもヘスが躓いた場所(スピノザ)からもう一度考え直すべきだろう。 参考: 柄谷行人「at」第6号の論考及び『世界共和国へ』(ここでは「青年ヘーゲル派」を採用されている。) ヘーゲル左派論叢 第2巻『行為の哲学』 コルニュ『モーゼス・へスと初期マルクス』及び訳者の武井勇四郎の解説も有益だった。 追記: 貨幣と言えば、以下の加川良(元ネタはブレヒト)の曲が思い浮かぶ。 ゼニの効用力について ♪ ねぇ お前さん方よ ゼニを卑しいものと思うなら 言っとくがその考えは 間違ってますよ この世は冷たいよ ゼニが無けりゃ そう ここにいるアンタ達にも言えることですよ ゼニの力が働けば この世は金色さ そう 凍っていたものも とけて 日に暖まる ねぇ お前さん方よ ゼニなどくだらんものと思うなら 言っとくがその考えは 間違ってますよ この世はさみしいよ ゼニが無けりゃ そう お前さん方は飢えるだろうし 手当たり次第に 奪い合う ゼニさえ有れば 厄介事も起こらない ゼニの無い奴ぁ夢さえ持てず あの世へ行く日を待ちわびるだけ ねぇ お前さん方よ ゼニを卑しいものと思うなら 言っとくがその考えは 間違ってますよ この世は冷たいよ ゼニが無けりゃ そう 善人だって偉人だってそれにそのまま 当てはまる ゼニを信じぬ堅物が 偉大を目指せるものじゃない 人として目指すのは ゼンじゃなくって ゼニなんだ 正しいものが 正しくなるさ 正しいものが 正しくなるさ ♪ http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/8360/songbook/kagawa.htm
by yojisekimoto
| 2009-12-13 15:32
| スピノザ
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