東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』書評
小説家東浩紀にとって小説作品は以下のようなレイヤー「ねじれ」をときほぐしかつまとめあげる装置ということだろう(時系列が間違ってるかも)。 漱石文学論、 結婚・娘の誕生 35 (『ゲーム的リアリズム』) 柄谷日本近代文学の起源 _____________________________________ 30 ノルウェイの森 _________________ 批評空間 20 F.K.ディック デリダ _________________ 18 ビューティフルドリーマー _________________ 16 世界文学 _________________ 14 新井素子 _________________ 12 小松左京!! ______________________________________ 年齢 影響源( 創作 / 理論 / 手本? / 個人的体験?) 『量子家族』の装幀、出版社、内容等が『存在論的、郵便的』の「続篇」を意識させるものには違いないが、『ゲーム的リアリズム』が文壇に理解されなかったことが小説を書く動機になっているらしい。 主人公がディックの読者という設定で、読者からの指摘を先取りするように『ヴァリス』が書名として出てくる。 (主人公の読書体験という)記憶と実在の曖昧さを表現しているから必然性はないこともないが、ドストエフスキーの名前は納得できても、ディックと春樹の名前は字面として生々し過ぎて作品から浮きすぎている。 (ネタバレを作者自らが作品内でしているからこうして読者が語りやすくなっているのだが) サンリオ文庫の手触りと言うか、基本的には後期の殺伐としたディック作品の雰囲気全体が導入されているのだが、押井守『ビューティフルドリーマー』の原作であるウェルメイドなSF『虚空の眼』に似ている部分もある(「かわいくて不気味なものが無限ループがら脱するキーワード」)。 ネタとして引用されているものは限りないが、並行世界ものという作品全体の構造にディックは関わるし、柄谷(主人公の名前は葦船往人)は東のファザコンを誘発するように機能し、良くも悪くも異物として作品が娯楽小説へ傾斜することを妨げており、この両者は東にとって決定的な名前なのだろう。 ディック風の構造に、自らの性的欲動、恋愛体験、世界観などすべてをぶち込んでいるところがミソだし、そこを評価したい。 柄谷は(外観としては)パロディ風に扱われるが、どこまで本気か判断に困る(ディック→並行世界→固有名論→柄谷→春樹、といった連想ゲームが働いているのだろう)。 ちなみに、柄谷が35歳で『日本近代文学の起源』を書いたことに東はシンパシーをもってるらしい(以前、柄谷の下でコロンビア大学院生になる夢=並行世界をブログで書いていたことがある)。 (読んだ人にしかわからない書き方になるが、)本気で、NAM=アナキズム=テロリズム、と東は連想するのだろうか?(ネタとしてはわからないでもないが) 多分東はプルードンを知らない。今後ルソー論を書くなら必須なのだが、、、、 とにかく不完全ながらも東は批評家には小説も書けるという可能世界の証明に成功し、デリダのいう「ゲームの切実さ」(『エクリチュールと差異』)を顕在化させたのだ。
by yojisekimoto
| 2010-01-22 17:08
| 研究
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